作: ダイアナ・ヘンドリー
絵: ジョン・ロレンス
訳: ふじいみきこ
出版社: 徳間書店
発行日: 1994年10月31日
推奨年齢:5歳~
にぎやかな絵です。クリスマスはにぎやかさが定番ですから当然といえば当然のこと。次から次に現れる来客を狼狽えることなく受け入れる大らかなベンとジェインのお母さん。昭和のテレビドラマにあった京塚雅子演じる「肝っ玉母さん」か、はたまたMrs.サンタクロースか? ともあれ、この出逢いこそがクリスマスプレゼントなのかも知れません。出逢いは「一期一会」だからこそ、全力でおもてなしします。
何物にも代え難い「人との出逢い」を宝とする方へのクリスマス絵本『クリスマスのおきゃくさま』をお届けします。
『クリスマスのおきゃくさま』の大まかなあらすじ
エクスター通りのベンとジェインの家に、クリスマス前日に思いがけないお客様が訪れます。最初はおじいちゃんとおばあちゃんでした。三匹のネコも一緒です。次にやってきたのは、もう片方のおじいちゃんとおばあちゃん。そしてベンとジェインの友達のアメリアとアニーとエイモス、バーソロミューおじさん……。
次々に現れるお客様をもてなすためにアイディアを駆使するベンとジェインのお母さん。家じゅうのあらゆる場所がゲストルームになります。ここがいちばんの読みどころです。
「えぇ~っ、こんなとこに人を泊めるの」
とびっくりするような場所もあるので、ぜひお子様とご一緒にお楽しみください。
果たしてこれだけの人が一軒の家に集まったとき、サンタクロースはどうするのでしょう? 全員にプレゼントを配りきれるのでしょうか……。
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人生は出逢い~「クリスマスのおきゃくさま」と「レ・ミゼラブル」
人生は出逢いです。善い人・佳い作品に出逢えば良い方向に導かれ、邪な人・悪い事との接触でよくない道に引っ張られることもあります。善い/佳い・邪/悪いの判断は難しいところですが、詐欺や強盗事件、不可解な火災、文化の異なる国からの移民が増えた近年の日本では慎重な判断が求められます。この「クリスマスのおきゃくさま」のように大らかにはなれず、むしろセキュリティ強化が望ましいのかも知れません。
大らかな愛~レ・ミゼラブル~
しかし、大らかな愛によって、逆に邪な心を持った人が変わるケースもあります。それはお客さまである邪な人が、善い人である大らかな愛の持ち主によって良い方向へ導かれるからです。『レ・ミゼラブル』の主人公ジャン・バルジャンがそうです。舞台や映画でも数多く上映されているからご存知の方は多いでしょう。ミリエル司教の大らかな愛に心打たれたジャン・バルジャンが改心してさまざまな不正や社会的悪と戦っていく物語です。ジャン・バルジャンはミリエル司教のもとで一宿一飯の恩義に与っただけでなく、あろうことか銀の燭台を盗んでしまいます。翌朝、ジャン・バルジャンは窃盗の罪で捕まりますが、ミリエル司教は「私が与えたものです」と証言。さらに2本の銀の燭台を与えます。
レ・ミゼラブル 上 (岩波少年文庫 536)
レ・ミゼラブル 下 (岩波少年文庫 537)
名作と呼ばれる作品はいつの時代にも読まれ、そして何歳になっても心に沁みわたり涙が溢れます。
来年も再来年も、ずっと逢えるような人として過ごすクリスマス
『クリスマスのおきゃくさま』のベンとジェインのお母さんの大らかな愛によって、とびっきりのクリスマスを過ごした多くのお客さまたちは口を揃えていいます。
「クリスマスにはこの家がいちばん!」と
きっと来年も再来年も、その先のクリスマスにも集まることでしょう。もちろん邪な心を持つ人は、1人だっていやしません。なぜなら、みんな来年も再来年もずっと、この家に来てみんなに逢いたいから。
「またあの人と逢いたい」
と思うとき、人は正直です。一度でも邪な心を持ってしまったら、もうエクスター通りの家には立ち寄れないでしょう。
出会いと出逢い
この記事で「で・あ・い」を「出会い」ではなく「出逢い」と表記しているのは理由があります。それは「会う」は物理的な対面であり、「逢う」はどちらかといえば感情的・心理的な対面を指すからです。
「出会い」は「出逢い」の意味を含みますが、初対面の物理的なきっかけの要素が強く、「出逢い」になると運命的なめぐり逢いで発展性が強調されます。したがって「出逢い」は1対1の場合に用いられるのが一般的です。「クリスマスのおきゃくさま」では多くの人が集まりましたが、個々の心の出逢いは1人対1人との認識で使用させていただきました。それぞれがそれぞれの心に呼応して、誰もが仲良くなり、そして再会を約束したことでしょう。
一期一会のおもてなし
出逢いは「一期一会」です。
一期一会とは、一生に一度だけの機会という意味です。つまり、今日の今この機会を逃したら、もうこの人とは逢えないかも知れないのです。そう思うと、初対面の人といえども、ぞんざいな対応はできません。ベンとジェインのお母さんや『レ・ミゼラブル』のミリエル司教のように、全力でおもてなししたくなるでしょう。
ただ、現実は厳しいもので、絵本の中のきれいごとだけでは生きていけないのかも知れません。それでもベンとジェインのお母さんのように、ミリエル司教みたいに、全力で真心を伝えていきたいものです。ジャン・バルジャンのような人が一人でも増えますように。
作者紹介/ ダイアナ・ヘンドリー| ジョン・ロレンス
ダイアナ・ヘンドリー
1941年イギリス生まれ。児童文学作家。フリージャーナリストを経て文学の道へ。大人向けの短編や詩も出版している。他の作品として「魔法使いの卵」「チビねずくんのクリスマス」
ジョン・ロレンス
イギリス・ヘイスティング生まれ。ヘイスティング美術学校卒業。イギリスを代表するイラストレーター。他の作品として「クリスマスの猫」「クリスマスの幽霊」