作: ユッタ・ゴアシリューター
画: アナトリ・ブーリキネ
訳: 木本 栄
出版社: ひくまの出版
発行日: 2001年10月1日
対象年齢: 3歳~
絵本は絵で語る本です。英訳すると「PICTURE BOOK」となります。したがって、表紙絵のインパクトで人気が左右されます。
この「こねことサンタクロース」の表紙絵に心を奪われました。
サンタクロースの大きな白い髭と、それに包まれた華奢な黒猫のコントラストが絶妙です。白い髭には幾重にも塗り重ねられたであろうさまざまな色彩が見え隠れし、サンタさんの長く深い人生経験を想像させます。柔らかい言葉で静かに奏でられるストーリーは、ページを捲るたびに冬の空気が立ち昇ってくるよう。
ユッタ・ゴアシュリーター&アナトリ・ブーリキネによる「こねことサンタクロース」を紹介します。
『こねことサンタクロース』の大まかなあらすじ
クリスマスの夜に子猫を捨てる人がいるんですね。
というのが第一印象です。捨てられた子猫はまるでマッチ売りの少女のように夜の街をうつむきながら歩きます。そしてトナカイと出逢い、サンタクロースのソリに乗せてもらって一緒にプレゼント配布のドライブを楽します。
包容力たっぷりの白髭サンタの膝に抱かれた子猫はうっとりと心地よい気分。そしてとうとう、自分を求めてくれていた本当の飼い主を見つけます。
大きなサンタクロースと小さな子猫とのコントラストが絶妙。じわっと抱きしめたくなるスイス生まれの絵本です。
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21世紀になってもなくならない捨て猫・捨て犬問題
『こねことサンタクロース』が刊行されたのは2001年です。
2001年といえば、日本は小泉首相でアメリカはジョージ‣W・ブッシュ大統領。気楽な二人が仕組まれたように日米のトップになった年です。日本では12月1日に愛子様が誕生されました。アメリカでは9月11日に同時多発テロが起こり、2977人が死亡。その後のアフガニスタン戦争、世界規模での対テロリスト戦争への引き金となります。
報復に次ぐ報復で放たれたミサイルは数え切れません。捨て猫や捨て犬はおろか、多くの人間が路頭に迷いました。その悪循環は、今なお繰り返されています。
日本の捨て猫・捨て犬の現状
日本の現状としては、2020年度に犬猫合わせて2万3764頭が殺処分されています。10年前には20万頭以上が殺処分されていたことを考えると、ずいぶんと改善はされています。しかし、それでも1日におよそ65頭が殺処分されていると想像するだけで胸が締め付けられる思いです。
殺処分の8割以上は猫であり、その60%が目も開かないような子猫です。なぜなら子猫は数時間おきにミルクを与えるなど世話が大変で行政対応が難しいからです。保護された子猫たちは『こねことサンタクロース』の子猫のようにサンタクロースと出逢うこともなく、命を閉じます。
近年では「ミルクボランティア」という養育ボランティアスタッフが引き取り、ある程度育ってから譲渡するなど、さらなる改善が進んでいます。
フランスは2024年からペットショップ販売禁止・ドイツは殺処分ゼロ
世界の現状に目を向けると、フランスでは2024年からペットショップでの犬猫の販売が禁止、ドイツでは殺処分ゼロと報告されています。
日本との違いは法整備と管理の徹底でしょう。ドイツでは殺処分を抑制するため2001年に「動物保護ー犬に関する命令」を施行し、罰則を伴うさまざまな禁止事項を設けました。さらに犬の飼い主は犬税を払うなどの措置により、安易なペット飼育を抑制しています。これが飼い主の自覚を促し、殺処分ゼロをもたらしたのではないでしょうか。
しかし、ドイツの殺処分ゼロは愛玩動物としての数値であり、野良犬・野良猫に関しては駆除が認められています。つまり、犬だから、猫だからというわけではなく、人の生活にとって有害か有益かが判断基準となるようです。人も人としての生活を守らなければならないとはいえ、「殺処分」と「駆除」の違いについて、また新たな疑問が湧きます。
サンタクロースの正体は……
人間も動物の一種でありながら他の動物たちとは一線を画した生活をし、さんざんに地球環境を汚してきました。地球にとって有害な生き物は人間なのかも知れないと思う人は少なくないでしょう。
けれども心の広い地球は、そんな人間たちの存在を許し、警告を交えながら今日も穏やかに見守ってくれています。過多が削られ、不足が補われるのは自ずから然り、人智の及ばぬ自然の営みではないでしょうか。
『こねことサンタクロース』のラストシーン、自ずから然りの如く終結し、そして新たな課題が生まれます。このサンタクロースの包容力と細やかさ、そして調和と循環のサイクルが、地球の営みそのもののように思えてなりません。
作者紹介/ ユッタ・ゴアシリューター アナトリ・ブーリキネ
ユッタ・ゴアシリューター
1960年ドイツ・ハウスベック生まれ。社会教育者としての活動の傍ら1995年から作家活動を開始。
アナトリ・ブーリキネ
1950年モスクワ生まれ。モスクワ建築専門学校卒業。ロシア北部の民族史「スヴェルニュ・プロストリ」誌の芸術部門を担当。写真やドローイングなどを国際的な展覧会に出品し注目されている。ウィーン在住。