作画： 谷口 智則
出版社： 文溪堂
発行日：2021年11月10日
対象年齢：3歳～
愛嬌たっぷりの谷口智則のサンタクロースが1人で悩んでいます。
というのは、どこかでクリスマスプレゼントを落としたらしいのです。
このサンタさんは「おおきいサンタとちいさいサンタ」のどちらでもなさそうで「100にんのサンタクロース」の誰だったでしょう？
個性的なサンタクロースは、誰が見ても谷口智則の作品とわかります。
今回紹介する「だれかのプレゼント」は、たくさんの登場人物ならぬ登場生物、お魚やカメ、ゾウさんにお月さまなどそれぞれが味わい深い筆致で描かれています。
情感たっぷりの生き物たちとお月さま、そしてサンタクロースの織りなす一夜のドラマをご堪能ください。
『だれかのプレゼント』の大まかなあらすじ
クリスマスの夜、サンタクロースがソリいっぱいにクリスマスプレゼントを乗せて出発します。トナカイはいません。多分、トナカイでは間に合わないくらい忙しくて急いでいたのでしょう。猛スピードでクリスマスの夜空を飛んでいたら……、何とプレゼントを1個落っことしてしまいます。
ところがサンタさんは落としたことに気付かず、そのままプレゼント配布へ急ぎます。一方の落っこちたプレゼントは海の中へ。そして魚に拾われ、魚からクジラへ、クジラから……綿々とバトンタッチされます。
それぞれが次へとつなぐとき、冒頭に配置されたオノマトペ（擬態語・擬声語）が効果的に使われてページをめくるのが楽しくなる絵本です。
サンタさんは落とした1個以外のプレゼントを配り終えて、ようやく足りないことに気付きます。
果たしてサンタさんは、落としたプレゼントを見つけて、ちゃんと届けるべきところへ届けられたでしょうか……。
続きは最寄りの書店に注文するか、下欄をクリックして購入をご検討戴けると幸いです。
情けは人のためならず
谷口智則の絵本を読むと、昔ながらのことわざをいろいろ思い出します。『おおきいサンタとちいさいサンタ』では「向こう三軒両隣」とか「困ったときはお互い様」ということわざがすぐに浮かびました。
この『だれかのプレゼント』では「情けは人のためならず」ということわざを思い出しました。「人に優しくすると自分に戻ってくる」という意味です。決して「人に優しくすることは、その人のためにならない」という意味ではありません。間違って解釈している方が多いそうなので念のため。
因みに「情けは人のためならず」の類義語には「善因善果」「人を思うは身を思う」があり、対義語としては「恩が仇になる」「悪因悪果」などが用いられます。
日本は落し物が戻ってくる率が高い
日本という国は、落し物の返還率が高い傾向にあります。警視庁の2018年のデータによるとの財布を無くしたという届出40万件に対し、拾得物として届けられた財布が37万件ありました。（警視庁おもな物品の受理件数）
海外で落とし物を届けると「正直な人」と称賛されるほど珍しいことだそうです。そう聞くと、日本人の気高さを誇らしく思います。一方で、その正直さにつけこんだ投資詐欺や意図的な情報漏洩、募金詐欺などもあるので注意も必要でしょう。
ともあれ、『だれかのプレゼント』に登場する生き物たちすべてが正直です。ということは、正直さは生き物の本能なのかも知れません。
だれかのプレゼントを届けることは自分へのプレゼント
作者の谷口智則は、
～誰かのプレゼントを届けることは自分へのプレゼントになる～
と語っています。
「情けは人のためならず」「困ったときはお互い様」「向こう三軒両隣」など、身に沁みることわざをついつい思い出してしまうのが谷口智則の絵本です。
ことわざは繰り返す日常から燻し出された指標のようなもの。ことわざを想起させる絵本は学びになります。それは幼児から子供へ、子供から大人になり老いて老人と呼ばれるようになっても変わりません。
作者紹介／谷口智則
1978年大阪府生まれ 金沢美術工芸大学日本画専攻卒業（在学中にボローニャ国際絵本原画展を見たことから、独学で絵本作りを始める）
2003年イラストレーション誌「THE CHOICE」準入選
2004年「新風舎えほんコンテスト」審査員特別賞
「新風舍出版賞」奨励賞
2005年「新風舎えほんコンテスト」優秀賞
2009年「Be絵本大賞（フジテレビKids他主催）」優秀賞
2015年 リブロ大賞 絵本「サルくんとバナナのゆうえんち」入賞
2018年 ようちえん絵本大賞「くいしんぼうのクジラ」受賞
未来屋絵本大賞「ブルドッグたんていときえたほし」入賞
わかやま絵本大賞2018「ブルドッグたんていときえたほし」入賞
